復活

F:「例の科学者は、その猫を取り戻しに来なかった?」
A:「来たことは確かだけど、この愛酒タインは渡さない。」
F:「そうか、キミも無事でなによりだ。猫の代わりに実験対象になったかと心配してたから。」
A:「まさか。でも、少しは収穫があったよ。」
F:「何が?」
A:「アインシュタインのこと。」
F:「その猫の名前?」
A:「そうじゃなくて、光が伝わるといわれていたエーテルを知ってるでしょ?」
F:「どこかで聞いたことはあるけど。」
A:「エーテルを葬り去ったアルバート・アインシュタインが、何故か波動関数に対してはエーテルを復活させて、その波が光速を超えないと思っていたらしい。」
F:「アインシュタイン量子力学が間違っているとはいってないよ(*1)。
  これは知り合いからの受け売りなんだけど、
  波動関数は現実に伝わる波じゃなくて、確率の間接情報を表した数学的産物に過ぎない。
  要するに、オバケや妖怪の類が瞬間移動するとしても、光より速いものは我々には視えないってことさ。」
A:「そういわれると、みもふたもないけど。」
F:「あの種の連中にはピグマリオン症候群に罹ってるのが多いと聞いてるから、君も感染しないように気を付けた方がいい。」
A:「それは、デング熱よりも強力?」
F:「僕は罹ったことがないから何ともいえないけど、デング熱よりも回復に時間がかかるらしい。
  それに、EPR相関なんてものは年寄りに任せておいて、僕らのような若者はもっと別のことに試行錯誤すればいいんだ。」
A:「ご忠告ありがとう。」

(*1)
 アインシュタイン等(EPR)が発した問いは、
Q)人類がこれまで(量子論以前)に見出した物理学理論は、実在に対応する量により記述された局所相関に基づく理論(実在論)であり、ニュートンの発見当時の万有引力のような非局所相関に基づく理論は排除されてきたという歴史がある。
 実在に対応しない波動関数により記述される量子力学を、物理学理論(この場合、実在論と同義)として認めていいものか?
 ということである。

 これに対する反論は、
A)波動関数は実在に対応する記述ではなく、状態を記述する関数であり、その位相速度は光速を超える(非局所相関)が故に、群速度(物質速度)が光速未満であることを保証している。このこと自体、量子力学が特殊相対性原理にしたがっていることを意味する。
 しかし、実在そのものを記述しない波動関数に基づく量子力学実在論に含めることはできない。すなわち、自然は実在論(局所相関)以外の理論(非局所相関)を許容する。


        実在論  非実在
 局所相関    ○    ×
非局所相関    ×    ○