EPR

M:「ところで、君はEPRパラドックスを知っておるかね?」
A:「EPR?」
M:「Eはアインシュタインの頭文字で、RとPは・・・、何某かの頭文字なんだが、まぁ、そんなことはドウデモよい。」
A:「それと愛酒タインと、何の関係があるんですか?」
M:「そう急かせるな。
   EPR論文は、物理的実在の量子力学的記述が完全かどうかを問題にしておる。」
A:「なんだか、ややこしそうな話ですね。」
M:「簡単にいえば、物理的実在と不確定性関係と非局所性が矛盾なく成立するかどうかという問題だ。」
A:「余計に難しくなっているじゃないですか!」
M:「まぁ、話をキキタマエ。
   君の愛酒タインは不確定性関係の餌食になるところだったんだが、これから話す思考実験には登場しないから安心しなさい。」
A:「思考実験?」
M:「要するに、頭の中だけで行う実験のこと。実験器具も測定装置も要らないから非常に安上がりにできて、我々のような裕福でない者には重宝しておる。」
A:「どんな実験ですか?」
M:「今、ここに粒子Xが静止しているとする。もちろん、君の目の前にそんなものはないが。
   あるとき、粒子Xが2つの粒子Y1とY2に壊れたとして、
         粒子Y1の位置をx1、運動量をp1で表し、
         粒子Y2の位置をx2、運動量をp2で表す。
  2つの粒子の相対位置座標Rと、全運動量Pはどうなるかね?」
A:「R=x1−x2で、P=p1+p2でしょ。」
M:「RとPを演算子として、交換関係[R,P]=0から(*1)、RとPを同時に測定して確定できる。
  2つの粒子の距離Lが十分に大きいとする。運動量の保存則より全運動量Pはゼロであるから、この関係が得られる(*2)。」
A:「ΔR・ΔP=0から、どちらも確定した値になるから。」
M:「結局、|Δp1|・|Δx1|=|−Δp2|・|Δx2|=|Δp2|・|Δx2|ということだ。」
A:「不確定性関係から、|Δp1|・|Δx1|≧1/2なら、|Δp2|・|Δx2|≧1/2が成り立つということですよ。」
M:「いや、そうとは限らん。粒子Y1が非常に重い場合には|Δp1|・|Δx1|=0の可能性も残っておる。この場合、|Δp2|・|Δx2|=0だ。
  しか〜し、|Δp1|・|Δx1|と|Δp2|・|Δx2|の一方がゼロで、もう一方がゼロでないということはあり得ん。」
A:「つまり、分裂した粒子Y1とY2で不確定性関係が成り立つか、成り立たないかのどっちか。」
M:「量子の位置xと運動量pを同時に測定したときに、それらの値が物理的実在を表さないことは、不確定性関係が保証しておるが、それらを別々の時刻で測定すれば確定値が出るから、物理的実在を表すといえる。すなわち、物理的実在とは測定の際に互いに乱されずに確定できる物理量があるときにだけ意味をもつ。」
A:「もしかして、愛酒タインはそのために僕の目の前に現れたワケですか?」
M:「君の直観は、ナカナカいい所を突いておるようだ。」

(*1)
 [x1−x2,p1+p2]
=[x1,p1]−[x2,p2]
=i−i=0

(*2)
 ΔR=Δx1−Δx2=0
 ΔP=Δp1+Δp2=0

(cf) 
Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete ? 
 物理的実在の量子力学的記述は完全と考えられるか?
A. EINSTEIN, B. PQDOLSKY AND N. ROSEN, Institute for Advanced Study, Princeton, New Jersey (Received March 25, 1935)

(訳)
 完全な理論には、現実の要素それぞれに対応する要素がある。物理量の実在に対する十分条件は、系を乱すことなく、それを確実に予測する可能性である。量子力学では、交換しない演算子で記述される2つの物理量の場合、一方の知識が他方の知識を予め妨げる。よって、
(1)量子力学での波動関数により与えられる現実の記述は完全でないか、または、
(2)これら2つの物理量は同時的現実性をもつことができないか、のいずれかである。
 ある系に関する予測を、その系と事前に相互作用する別の系でなされた測定に基づいて行うという問題の考察は、(1)が偽なら、(2)もまた偽であるという結果を導く。こうして、波動関数で与えられる現実の記述は完全でないという結論へと導かれる。