不変

A:「ところで、i・dA(t)/dt=[A(t),H(t)]で、tを固有時間τにすれば、ローレンツ変換で変らない式になるってことかな?」
B:「試しに、A=Xとして(*1)、これが不変式かどうかを確かめてみよう。」
A:「相対速度をVとするとβ=V/cでγ=√(1−β^2)として、固有時間τの変化はdτ=dt/γとなる。」
B:「僕の座標ではdτ’=dt'とするから、
   i・dX'/dt'=[X',H']が成り立つはずだ。」
A:「ローレンツ変換はこうだから(*2)、
   [X',H']=γ^2[X−V・t,H−V・P]
=γ^2{[X,H]−V[t,H]−V[X,P]+V^2[t,P]}
=γ^2[X,H]
    が出てくる。」
B:「i・dX'/dt'の方を計算すると、
   i・γ^2・(dX/dt−V)となる。」
A:「ということは、
   i・(dX/dt−V)=[X,H]だから、−Vが余分に出てきて形が崩れる。」
B:「−Vを消すには、i・∂X'/∂τの項がいるね。」
A:「i・γ・∂X'/∂t
   =i・γ^2・∂(X−V・t)/∂t
   =i・γ^2・(∂X/∂t−V)
 これをi・dX'/dt'の式から差っぴくと、
   i・γ^2・(dX/dt−V)−i・γ^2・(∂X/∂t−V)
  =i・γ^2・(dX/dt−∂X/∂t)=γ^2[X,H]
  そうすると、i・(dX/dt−∂X/∂t)=[X,H]となる。」
B:「ここで演算子A(t)を4元ベクトルとする。成分A1とA0がローレンツ変換式でA'1とA'0に変るとして同じようにやってみると、こうなるよ(*3)。」
A:「A1とA0はPと交換するから、これが出るのか(*4)。」
B:「関数A(x,t)の時間微分はこの公式(*5)だから、
  (∂A/∂x)・(dx/dt)にiをかけたものが、[A,H]に相当する。」
A:「式は、こんな感じかな(*6)。」
B:「Hはハミルトンの理論で全エネルギーを表してる。実は、ハイゼンベルク運動方程式をこの形で書いたのはディラック(*7)という人だよ。」
A:「それじゃ、ディラック運動方程式を書いた人はハイゼンベルク?」
B:「勿論、ディラックさ。」
A:「君はディラックのファンみたいね。」

(*1)
 i・dX/dτ=[X,H]

(*2)
 dX'/dτ=γ・(dX/dτ−V・dt/dτ)
 H'=γ・(H−V・P)

(*3)
 A'1=γ・(A1−β・A0)
 A'0=γ・(A0−β・A1)

 i・(dA'1/dt’−∂A'1/∂t’)
= i・γ^2・(dA1/dt−∂A1/∂t−β・(dA0/dt−∂A0/∂t))
=γ^2・([A1,H]−β・[A0,H])

 [A1',H']
=γ^2[A1−β・A0,H−V・P]
=γ^2([A1,H]−β[A0,H]−V[A1,P]−β・V[A0,P])

(*4)
 i・(dA'1/dt’−∂A'1/∂t’)=[A1',H']
 i・(dA1/dt−∂A1/∂t)=[A1,H]
 i・(dA0/dt−∂A0/∂t)=[A0,H]

(*5)
 dA(x,t)/dt=∂A/∂t+(∂A/∂x)・(dx/dt)

(*6)
 i・(dA/dt−∂A/∂t)=[A,H]

(*7)ネタ本
リプリント 量子力学[第4版]