消失

A:「この世はとかく不確実だ。彼女とうまくいったり、いかなかったりで。」
B:「今日はなんか、元気ないね。」
A:「人生イロイロあるから。」
B:「じゃ、気分転換に計算でもしてみる?」
A:「どーいう神経してるの?」
B:「人生には誤差がつきものさ。」
A:「それって不確定性関係のことを言ってる訳?」
B:「とにかく、こういうときは前に進むしかないよ。」
A:「ポジティブだなぁ。」
B:「君の座標でΔEとΔtの積が、僕の座標ではどうなるかを計算してみよう。
   ΔEとΔtのローレンツ変換式はこうだね(*1)」
A:「群速度vgを一定として、vg・ΔE=Δp・c^2と、Δx=vg・Δtの関係を使えばいい(*2)。
  ΔE/(Δp・c)=αg=1/αp、(c・Δt)/Δx=αp=1/αgとして、ΔE'・Δt'=ΔE・Δt・(1−αg・β)・(1−αp・β)/(1−β^2)が得られる。
 αg=αp=1だと、係数は(1−β)/(1+β)となる。β=1なら係数はゼロになって、ΔE'・Δt'=0だから、不確定性の壁は消失!」
B:「位相速度vpの場合もやってみよう。」
A:「ΔE=vp・Δpとvg・vp=c^2を使えばいいから、こうなる(*3)。
   vp/c=αpとおくと、ΔE'・Δt'=ΔE・Δt・(1−β・αp)・(1−β・αg)/(1−β^2)が得られるから、さっきと同じだ。
B:「αg=αp=1の場合、βが1に近づくと、その極限値はゼロになる。ΔpとΔxの計算も後でやっといて(*4)。
A:「αg・αp=1の関係を使えばよかっただけか。」
B:「ΔE'・Δt'=0から出てくるのは、ΔE'=0またはΔt’=0だよ。」
A:「僕の座標でΔE・Δtがゼロにならないのは、交換関係[E,T]がゼロでないからだった。」
B:「ΔEやΔtは誤差というよりも、不確定の目安になる量だよ。[E,T]=0を仮定した場合、EとTが同時に確定した値をとることが想定される。[E,T]がゼロでない場合、値が確定しないんだから、ホントの値が何かなんてことは分からないからね。」
A:「でも、光速になればモヤモヤは晴れるんだから、僕と彼女との薔薇色の未来が見えてくる。」
B:「その単純な期待については、かなり飛躍が必要のようだ。」

(*1)
 ΔE'=γ・(ΔE−V・Δp)
 Δt'=γ・(Δt−V・Δx/c^2)

(*2)
 ΔE'=γ・ΔE・(1−V/vg)
 Δt'=γ・Δt・(1−V・vg/c^2)

(*3)
 ΔE'=γ・ΔE・(1−V・vp/c^2)
 Δt'=γ・Δt・(1−V/vp)

(*4)
 (Δp'・Δx')/(Δp・Δx)
  =(1−(β/c)・(ΔE/Δp))・(1−β・(c・Δt/Δx))/(1−β^2)
  =(1−β・αg)・(1−β・αp)/(1−β^2)