双曲

A:「今日は、この間の続きだよね。」
B:「何か気合が入ってるみたいだな。」
A:「∂T'∂X'を∂Xと∂Tで表すには、変換式同士の掛け算を展開すればいいから(*1)、
いちおう計算できたよ。
   ∂T'∂X'φ(δ')=∂T∂Xφ(δ)にならないといけないから、∂XXと∂TTの係数はゼロにしないといけない。」
B:「S21かS11がゼロで、S22かS12がゼロだね。とりあえず、S21とS12をゼロにしてみよう。」
A:「S22・S11=1とすればいい。」
B:「指数関数exp()を使って、S11=exp(Θ)とおけば、S22=exp(−Θ)だ。」
A:「Θは何?」
B:「いまは気にしなくてもいいさ。」
A:「変換式は∂X'=exp(Θ)∂Xと、∂T'=exp(-Θ)∂Tになる。XとTを元に戻せば、こうなるよ(*2)。2つの式を足したり引いたりすれば、∂xと∂tの変換式が出てくる。」
B:「こういうときには、双曲線関数(*3)が便利なんだ。」
A:「これを使うと、すっきりした形(*4)になる。」
B:「ここで、tanh(Θ)=sinh(Θ)/cosh(Θ)をβとおくんだ。cosh(Θ)の2乗からsinh(Θ)の2乗を引くと1になる性質がある。」
A:「三角関数の場合には、cos(Θ)の2乗とsin(Θ)の2乗を足すと1になるけど。」
B:「1からtanh(Θ)の2乗を引くと、1−β^2=[1/cosh(Θ)]^2だから、cosh(Θ)をβで表すことができる。sinh(Θ)は、[cosh(Θ)]^2−1の平方根から出せる。」
A:「cosh(Θ)=1/√(1−β^2)で、sinh(Θ)=β/√(1−β^2)となるよ。これをさっきの変換式に代入すれば、一件落着となって桜吹雪が舞い落ちる。」
B:「どうもお疲れさま。」
A:「でも、どうしてtanh(Θ)がβだって分かったの?」
B:「少し先回りしてズルしたんだ。」
A:「そこが君のいけないところなんだ。」
B:「βが何かなんて気にしないでお開きにして花見に行こうよ。」
A:「君らしくもない。」

(*1)
 ∂T'∂X'φ=(S21・∂X +S22・∂T)・(S11・∂X +S12・∂T)φ

=[S21・S11∂XX +(S21・S12+S22・S11)∂TX +S22・S12∂TT]φ

(*2)
 ∂x'+(1/c)∂t'=exp (Θ)[∂x+(1/c)∂t]
 ∂x'−(1/c)∂t'=exp(−Θ)[∂x−(1/c)∂t]

(*3)
 cosh(Θ)=[exp(Θ)+exp(-Θ)]/2
 sinh(Θ)=[exp(Θ)−exp(-Θ)]/2

(*4)
 ∂x'=  cosh(Θ)∂x + (1/c)・sinh(Θ)∂t
 ∂t'=c・sinh(Θ) ∂x +      cosh(Θ)∂t