非常識

A:「一定の速さで走っている君の座標でも僕の座標でも、真空中の光速が一定ってのは覚えやすくていいんだけど、変換式に辿り着くまでは、そう簡単ではないね。」
B:「確かに。ガリレイ変換は常識に合ってるから受け入れやすいけど、ローレンツ変換となるとそうはいかない非常識が出てくる。」
A:「非常識はいつも僕には合ってるんだ。」
B:「アインシュタインの頃には非常識だったことも、今では常識になってる。この社会では常識の数が勝っている方が生き易いといわれている。」
A:「君は科学的発見がどの程度人の役に立つと考えてるの?」
B:「生まれたばかりの赤ん坊が直ぐに役に立つ筈ないさ。」
A:「では、どうでもいいようにみえる発見や法則は、何の役に立つんだろうね。」
B:「少なくとも、あり得ないことに無駄な時間やエネルギーを費やすことから解放されるから、それらをもっと有効に使えるようになるさ。」
A:「僕らは今、何とか変換の話をしてていいんだろうか?
   放射能汚染地域を元どおりにする方法とかを考えた方がいいんじゃないの?」
B:「残念ながら、人類は100年経った今でも原子力を完全に制御するレベルに達していない。
 かつて電気が何ものか不明な時代には怖れの対象でしかなかったように。でも、それに挑み続けてきた科学技術者の努力によって、現在がある。」
A:「光速よりもずっとノロい僕たちが、何かの手掛かりを掴めるなら、いつの日か光は見えてくるかも知れない。」
B:「そのときが来るまで、科学は進歩し続けると信じるから、非常識に挑戦できるんじゃないかな。」